歯科衛生士の新人教育、
- 「なんでできないんだろう?」
- 「何度も教えたはずなのに…」
スケーリングなどを教えている時、こんな風に感じたことはありませんか?
なぜできないんだろう??
今回は、新人教育の中で、「なぜ教えたのにできないのか?」を『メンタルモデル』という視点から見る考え方について、お伝えできればと思います。
岡村乃里恵歯科衛生士の育成に携わって20年
たくさんの笑顔に出会い、時には悩みながら、日々“教える”という時間と向き合ってきました、
このブログでは、私・岡村が、現場で実践していること、そして「うまく伝わらない」ときのヒントをまとめています!


①新人歯科衛生士が「見て覚える」には限界がある
『スケーリングの技術』というのは、その知識だけではなく、“動作の学習”が重要なポイントになります。
例えば、ピアノを弾いたり、自転車に乗ったりするとき。
最初は「どうやるんだっけ?」と考えながら体を動かしますが、慣れてくると自然に動くようになります。
この「考えながら動かす」→「自然に動ける」ようになるまでのプロセスが『運動学習』です。
また、スケーリングにおいて、頭で理解していても体が追いつかない段階があります。
つまり、「わかっているのにできない」という状態は、学習の途中である証拠なんです。
そこを悩まず、どう支援するかが教育の腕の見せどころです。
② 「できる人」と「できない人」は頭の中の地図が違う
少し心理学を用いて説明していきますね。
メンタルモデルとは、頭の中にある“成功のイメージの設計図”のこと。
私が心理学を学び始めた頃、この『メンタルモデル』という考え方を知ったことで、心がふっとラクになったのを覚えています。
人は、この設計図をもとに行動しています。
スケーリングが得意な人は
- 「どの角度で刃先を当て」
- 「どんな圧で」
- 「どんな順番で」
動かすのか、そのイメージが頭の中に明確にあります。
一方、できない人は、まだそのイメージが頭に描けていません。
見よう見まねでは、細部が曖昧なまま。
いくら同じ動きを見せても、『どこを見て、何を感じるべきか』が分からないのです。
これは、理解していないのではなく、「どこを見ればいいのか?“目印・ポイント”がない」状態。
教える側が、このことを理解しておくだけで、伝え方は大きく変わります。
③ 「見て覚えて」では届かない理由
教える側が「角度を見てね」と思っていても、相手は「手の動き」や「スピード」に目がいっている。
このように、注目しているポイントのズレが、技術習得の大きな壁になります。
人は“何を見るか”を意識しないと、重要な情報を見逃してしまう傾向があります。
だからこそ、ただ「見て覚えて」ではなく、「どこを見ればいいか」まで伝える必要があります。
- 「今は角度よりも歯面への当て方を意識してね」
- 「動かすより、まず沿わせる感覚を優先しよう」
こうしたガイドが、“観察”を“学習”に変えていきます。


④ ケーススタディ:感じて、つかむ
ある新人さんとのお話。
スケーリングの練習中、刃先が強く当たり、金属音がキーンと響いていました。
「角度は合ってるのに…」と悩む時、私は手を添えて教えます。
- 「ここでは押すんじゃなくて、引く感じ。歯面をなでるように」
一緒に動かしながら伝えると、音がスッと静かに変わります。
手の力が抜け、歯面に“沿う”感覚が伝わった瞬間がわかります。
- 「岡村先生、分かった気がします」
その言葉を聞くたびに、頭で理解するだけでなく、“感じてつかむ”ことの大切さを改めて感じます。
人は「頭で理解」→「体で再現」→「感覚で納得」して初めて定着します。
でも、この“感覚を捉える”という段階が、実はいちばん難しいのです。
感覚をつかむのが得意な人もいれば、苦手な人もいます。
苦手な人は、まだ「体の中で起きている変化を意識する」経験が少ないだけ。
だからこそ、指導者は「どんなふうに感じればいいか」まで言葉で導く必要があります。
- 「今のは引いてる感じ? それとも押してる?」
- 「歯面をなでる感覚、どんな強さだった?」
そんなやり取りの中で、少しずつ“感じ取る力”が育っていきます。
⑤ 同じ初心者なのに、すぐにできる人はなぜ?
「スタートは同じはずなのに、なぜかスッとできる人がいる」
そんなこと、ありませんか?
その方は最初から正しい答えを知っているわけではありませんが、
すぐにできる人は
心理学的に見ると、「すぐにできる人」には次のような3つの特徴があります。
1.経験の応用力(運動スキルの転移)
過去の経験(スポーツ、楽器、絵など)で培った感覚を、新しい技術に応用できる。
例えば、ピアノを弾いたり、絵を描いたりしてきた人は、「手先のコントロール」や「力加減」をつかむのが早い。
2.感覚フィードバックの鋭さ
動きのズレを自分で感じ取り、すぐに修正できる。
これは「身体のセンサー」が高い証拠です。
3.メタ認知(自分を客観視する力)
「今の動きは違う」「たぶんこうすればよさそう」と、自分で仮説を立てて試行錯誤できる。
一方で、苦手な人は
感覚をつかむのが苦手な人は、正解を探そうと一生懸命になりすぎて、『“感じる”より“考える”に偏ってしまう』という特徴があります。
だから、私たち指導者が支援すべきは、
「うまくできる方法」ではなく、「うまくいく感覚の見つけ方」を一緒に探すことです
感覚が育つスピードは人それぞれ。
焦らず、一緒に“感じ取る練習”を重ねていくことが、確かな上達につながります。


⑥ 教えることは、自分の感覚を見直すこと
「なぜできないんだろう?」と感じるとき、相手の問題に見えて、実は自分の中にもヒントがあります。
つまり、感覚的にできている状態です。
だからこそ、教育の場はチャンス。
自分が当たり前のようにやっている動きを、あえて言葉にしてみることで、無意識の中にある「うまくいく理由」が見えてきます。
- 「私はどんな順番で動かしている?」
- 「力を抜く瞬間ってどこ?」
- 「今どこが当たってると思う?」
こうして一つひとつを言葉にしていくと、自分の中の感覚が整理され、伝える精度が上がります。
このことを忘れないでくださいね。
教えるたびに、自分自身の動きや感覚の理解も深まり、技術そのものがより洗練されていきます。
『教える』とは、相手を育てることでもあり、同時に、自分の感覚を見直す時間でもあると日々思っています。
⑦ 「感じ方のズレ」を埋める
人は同じ言葉を聞いても、違う意味に受け取ってしまうことがあります。
たとえば「軽く当てて」と言っても、ある人は“ほんの少し触れる程度”と感じ、別の人は“少し押さえ気味”と感じる。
このズレを埋めるには、
- 「今どう感じた?」
- 「どんなふうに当たってる気がする?」
という風に、相手の“内側の感覚”を言葉にしてもらう、このやり取りこそが、理解のギャップを橋渡しします。
見えている動きを合わせるだけでなく、感じている“頭の中の世界”をすり合わせること、それが「伝わる教育」につながると思います。


まとめ:言葉にしてみる練習を、一緒に
私にとっても『感覚を言葉にすること』は簡単ではありません。
- 「どう動かしているの?」
- 「どんな感じ?」
と聞かれて初めて、自分の中に言葉が生まれてくることが、今でもたくさんあります。
言語化することは、一人で考えるよりも、誰かに教わったり、人の話を聞いたり、質問されたりする中で、少しずつ語彙が増えていくものだと感じています。
そんな経験から、私自身がこれまで感覚的に行ってきたことを、動画や言葉でわかりやすく整理して届ける場として、「歯科衛生士のための動画学習サイト ラプレッスン」 の運営を続けています。
指導するからこそ、「なぜそうしているのか?」を一つひとつ言葉にしていく。
ラプレッスンの教材づくりは、私にとっても、自分の感覚を見直し、言語化していく学びの時間です。(9年続けていますが、毎回伝え方に悩んだりもしてます)
もし今、
- 「どう伝えればいいのか分からない」
- 「どんなふうに動けばいいのか、イメージしづらい」
そんなモヤモヤを感じている方は、ラプレッスンも、学びの選択肢のひとつとして思い出してもらえたら嬉しいです。
育成は、人の成長を支える時間。
この楽しさに、ハマる人がもっと増えますように。
私は心から願っています。



