新人の歯科衛生士が、自分から動いてくれない…
新人教育をしていると、必ずといっていいほど出会うタイプが
- 「言われたことはきっちりやってくれるけど、自分からは動かない」
- 「次の行動を待っている」
そんな姿に、院長先生や先輩としては、「もっと自分で考えて動いてほしい!」と感じることもあるのではないでしょうか。
ここで大切なのは、「なぜ言われるまで待っているのか」を見極めること。
ただ「やる気がない」のではなく、その背景には、“動けない理由”が潜んでいることが多いのです。
今回は、そんな歯科医院でよくある新人さんが動けない理由を1つずつ解消する方法をお伝えできればと思います。
岡村乃里恵歯科衛生士の育成に携わって20年
たくさんの笑顔に出会い、時には悩みながら、日々“教える”という時間と向き合ってきました、
このブログでは、私・岡村が、現場で実践していること、そして「うまく伝わらない」ときのヒントをまとめています!


① 新人歯科衛生士に「社会人と学生のギャップ」に気づいてもらう
新人さんにとってのこれまでの環境では、「言われたことを言われた通りにやる」ことで十分に評価されてきたかもしれません。
一方で、社会に出ると、それだけでは高い評価にはつながらないこともあります。
もちろん医院によって方針の違いはあると思いますが、社会としては「自ら考え、行動できる人」が求められています。
このことを、教育のスタートとして伝えることが大切です。
「丁寧に仕事をこなす力はすごく大事。その力をベースに、もう一歩先を見て動けるようになってほしい」
“医院として何を期待しているのか”を、やさしく伝えることで、新人さんにとっては新しい視点が生まれます。
私が出会ってきた「自分から動かないタイプ」の多くは、“言われるまで動いてはいけない”と思っている方がほとんどでした。
そんなときは、
と一言伝えるだけで、相手が少し驚いたように「そうなんですか?」と返してくれることがあります。
その小さな反応の中に、動くきっかけの芽が見えることがあります。
② 強みを伝えることで、信頼の土台を築く
「Aさんは、仕事がとても丁寧で確実。頼んだことをきちんと仕上げてくれるから、安心して任せられる」
こんなふうに、
人は「信頼されている」と感じた瞬間に、“次の一歩を踏み出しても大丈夫”という安心感が生まれます。
その信頼が、前向きに動くための土台になります。


③ 「どうしてやらないの?」ではなく「なぜ動けないのか?」を探る
動けない新人さんの背景には、こんな理由が隠れていることがあります。
- 情報不足:次に何をすればいいか分からない
- 目的の理解不足:作業の“意味”や“背景”が分からず、動く理由が見つけられない
- 自信のなさ:「間違えたらどうしよう」「叱られたくない」という不安
- 過去の経験:以前の職場で「余計なことをすると怒られた」などの記憶がブレーキになっている
私が実際に関わった中で、こんな場面がありました。
「次に何をするか気付いていた?」と尋ねると、「はい、気付いていたのですが…やっていいのかわかりませんでした」と答えてくれたのです。
そのとき私はこう伝えました。
「ここでは、一歩二歩先を読み、動ける人を育てていきたいんだよ。気付いたなら、次は動いてみよう!」
そして先生や先輩方には、
動いたこと自体を認めてもらえると、新人さんは安心して“次の一歩”を踏み出せます。
④ 「学習性無力感」を取り除き、安心して動ける場をつくる
心理学には「学習性無力感」という考え方があります。
- 「どうせやっても怒られる」
- 「動いても報われない」
という経験を重ねると、人は、少しずつ“やってみよう”という気持ちが遠のいていきます。
むか〜しむかしの私にも、実はこの経験がありました。
「言われたことしてたらいいやん」と思っていた時期を、今も覚えています。
そんなときに、「さっきの動き、よかったね」と声をかけてもらったことがありました。
その一言で、「動いたことはよかったんだ」「ちゃんと見てもらえていたんだ」と思えたことを、今でもよく覚えています。
あのとき感じた安心感が、前を向いて働く力につながっていった気がします。
だからこそ、今はこう思います。
「動いてよかった」という体験を、教育の中で意識的に積ませてあげること。
この小さな積み重ねが、学習性無力感をやわらげ、“自分で考えて動ける力”を少しずつ育てていきます。


⑤ 考える習慣を育てる問いかけを増やす
- 「この仕事、もっとよくするにはどうすればいいと思う?」
- 「この状況で、どう動くのがいいと思う?」
こうした問いかけを繰り返すことで、“自分で考える習慣”が少しずつ育っていきます。
「工夫してね」だけでは伝わりません。
何をすればいいのか分からない新人さんには、行動例を具体的に示しましょう。
「ユニットが空いていたら、○○を整えておいてくれると助かるよ」
「この資料、気づいたことがあったらメモして残しておいていいよ」
で、新人さんは安心して動けるようになります。
⑥ 気づいた行動には、すかさずフィードバック
「さっき○○してくれてたね。気づいて動けたの、すごくよかったよ!」
こうした言葉をかけると、新人さんは「見てもらえている」と感じます。
この積み重ねが、受け身から“自ら動けるスタッフ”への成長を支えます。


⑦ 「人育ては自分育て」新人指導の中で自分も磨かれる
正直、先輩や指導者は「いちいち言うのが疲れる」と感じることもあります。
その気持ちはとてもよく分かります。
けれど、
伝え方ひとつで、相手の受け取り方は大きく変わります。
叱るように言うのではなく、未来を見ながら、「あなたならきっとできる」という信頼を込めて伝えたいですね。
まとめ:受け身から主体性へ
「言われるまで動かない新人歯科衛生士さん」は、決して“できない人”ではありません。
動けない背景があり、そのブレーキを一つずつ外していけば、必ず“自分で考えて動ける人”へと成長していきます。
- 社会人の求められる姿を伝える
- 強みを言葉にして信頼の土台を作る
- 動けない理由をヒアリングする
- 心理的背景を理解し、安心して動ける場をつくる
- 考える習慣を育てる問いかけを増やす
- 気づいた行動にはすぐにフィードバック
教育は「人育て」であり、同時に「自分育て」。
新人さんと向き合う時間は、実は私たち自身が成長するチャンスでもあります。
私も日々、生徒や新人さんと接する中で「なるほど」と気づかされることがたくさんあります。
「教えるつもりが、逆に学ばせてもらっている」
そのたびに、“人と向き合うことで自分も磨かれていく”。
そんな想いを胸に、今日も指導の場に立っています。



